あれではとてもイルカにはなれない

世界観をアウトプットするブログです、何卒

ガードレールは緑色だった

緩やかな坂。石のタイルの歩道。前から来る自転車のライトは明るい·····バカみたいに。他に適切な表現が思いつかないほどに野心的な光。

キミは自転車のライトとしてはいささか明るすぎる。



ガードレールに寄りかかる。それは直径5cmくらいの丸いパイプで構成されていた。とても強い衝撃には耐えられそうもない。


例えばそう、内燃機関で駆動する四輪の機械なんかが衝突したら、彼はその衝撃に耐えられないだろう。そう考えると、急にこの道を歩くのが心許なく見えた。律儀に整列しているガードレールが、屏風の群れに見えてくる。


ガードレールがある、という事実が重要なのだろう。ガードレールの機能や役割なんかよりも、遥かに、ずっと。



ガードレールは緑色だった。



目を覚ますと既に日は高く、どうやら世界は今日も僕を置いて進んでいるらしかった。まったく。

たまには世界が僕に合わせてくれたっていいのに。


たくさんの不在着信にはダンマリを決め込んで。



しばらくして外に出ると、冷たい風が吹いていた。冷たく、強い。冬だ、と思った。

おかげでなかなかタバコに火が着けられない。根気強くフリントを擦っても、火花が散るだけに終わる。冬はどうやら喫煙者のことが嫌いらしい。季節まで嫌煙するのか、と僕は思った。そして日が沈んだ。




痛みは生きている証だ、と誰かが言った。そんな証ならいらないと僕は思った。どうして痛みなんて与えられなければならないのだろう。「あなたは生きています」と、表彰状を贈ってくれれば済む話だ。


しかしそれは、誰から贈られるものなのだろう?


そして痛みは、誰に与えられるものなのだろう。


ガードレールは、緑色だった。



寒くなりましたね、と話しかけられた。相手は初老の男性だった。突然のことに戸惑いつつも、そうですね、すっかり冬です、と答えた。心の中で、「そして冬は喫煙者のことが嫌いなようです」と付け加えた。


「その通り。冬は難しい季節ですね」と男性は言った。まるで僕の心の中を見透かしているみたいに。



偶然の一致だったのだろう。それでもこのことはどうも僕の心に引っかかった。まるで知恵の輪でも渡されたような気分だった。それは何の変哲もない知恵の輪だ。解かなくても世界は終わらない。


しかし僕はそれを解かなければならない。知恵の輪は解かれる為にある。




ガードレールは、緑色だった。